神火(しんか)








呼ぶ声に。




 

地球の起源。

宇宙がまだ、混沌としていた時代から百数億年後。




お父さんの神様とお母さんの神様が、

矛で海の水をすくい、


くるくると回る塩の塊を作られた。


その塊は、おのずからころころと回っていたので、

それを、おのころ嶋と呼んだ。





地球に降り立った神様は、
八十一の神様と日本の島々を次々と作られた。



岩、木、水。


海、風、山。

その神様がまた神様を生み。


「おのころ嶋」は自然の神様でいっぱいになった。














その神様のお父さんとお母さんがいらっしゃる熊野の話。















 





「男なら山に登って来い。」と

父は言う。


  


  

「無事に降りて来て。私は下で待つことしか出来ないから。」と

母は送り出す。














熊野の神様が降りた山に。

  


自分の足で山に登る。

階段とは思えないほどの石組みの参道を。






一段一段。


一人で。



すべて、自分の責任で。









谷に落ちても、喧嘩があっても。


お山へと、登り子となって。

何度も登るたびに男の子は、男に変わって行く。














そして、

おとうさん、おじさん、、そして、おじいさんまで。


一人一人が集まってゆく。



反対に、街の光は帰りを待つ女ばかりになり。




街の人数が二つに分かれてゆく。











岩山の斜面は座るところがなくなるくらいの人数になった。




















次々と。





終わりがないくらい。


次々と。




























日が落ちて。

2千人の最後に、一本の火が昇る。


 


  

神様が降りた瞬間を再現するために。









待ちかねた火は届けられ、


配られた。







隣から隣へ。










二千本の願いを込めた炎になって広がる。






「鳥居の中に入れー」






灼熱。

燻される。





「あけろ」と叫ぶ声。


喧嘩。

火の粉が散る。



ケガレなき火が岩山に広がり、全てを赤く染めたとき。









門は開け放たれた。




火が降りた。











いっせいに、おのころ嶋に向かって。







光だけではなく、熱も引き連れて。

  

それぞれの速度で。





軌跡を描いて。

  


とめどなく飛び出す神火。

昼でも険しい石組みの階段。
炎が闇を割き。
火の粉が足もとを焦がす。






火に生命が宿り。





炎の龍となり、
自ら下ってゆくように。






子供の頃から燈す灯。





人が歳を重ねても、燈す人の年齢に違いがあれど

神火は絶対に変わらない。







人が生まれる前、地球の起源の時、降臨した炎と、



絶対に変わらない。






時の再現に神火に



深く、深く、





心打たれた。




































日が昇り、

祭りの後。




  

女人禁制はとかれ。






墨色になった小道を進む。






焦げてしまった、石の神社に息を切らせ再び登る。











そこには、静寂の中に

灼熱の記憶があった。

この街の人々の「炎」への気持ちがあった。







人は今も「おのころ嶋」に生まれ、「おのころ嶋」の伝説を伝え続けていた。



「神火」が生まれ、消えても、同じ「神火」として繰り返すように。







熊野の神様が




「おのころ嶋」に、降臨されたと伝え続ける。



   



太陽の恵み。

月の静寂。

生命の起源の海。


自然を治める八十一の神様の父母が

熊野に降臨した時の炎。














今も、時の炎が目の前に紅く、

熱く、見えるようだった。









想像できないほどの、


遠い遠い時を越えて。











神火:2005KABUN





ご感想ありがとうございます








神火(しんか):けがれのない火




お燈祭り:新宮市に伝わる熊野の神様が神倉山に

降臨した事を再現する速玉大社の火祭り。







熊野三山

熊野速玉大社(イザナギノミコト) 熊野那智大社(イザナミノミコト) 熊野本宮大社(スサノオノミコト)

高天原から降臨されたイザナギノミコトとイザナミノミコトが、
大地や島々、そして、八十一の神様をお産みになった。

イザナギノミコトが禊を行ったときに産まれた神様に、

アマテラスオオミカミ(太陽の神様) ツキヨミノミコト(月の神様) スサノオノミコト(嵐の神様)

がいらっしゃいます。






参考



昨今、日本人でも読む機会が少ないと言われている。
「古事記のものがたり」が読みやすくインターネットで読めます。
また、自主出版されていますので購入もできます。


科学の進んだ現代だからこそ、
暖かく厳しい一番遠い時間のお話が寄り添うように感じます。